変わる救急救命士
「急病人!」「バスの中で男性が卒倒!」
119番通報で、千葉県・印西地区消防組合消防本部の救急救命士、佐藤勝己さん(39)は、同僚の救急隊員2人と同県白井市の現場へ向かった。
昨年暮れの夜のことだ。
現場に到着すると、男性はバスの床に横たわっていた。運転手の話では、始発の停留所から乗った60歳代男性が、
発車してすぐに大いびきをかき、やがて静かになった。バスを止めて確認すると、呼吸をしていなかったという。
佐藤さんと隊員は、ただちに人工呼吸と心臓マッサージの「心肺蘇生法」を行ったが、男性の呼吸は止まったままで、心臓の鼓動もない。
その間、もう1人の隊員が心臓に電気ショックを与える「除細動器」をセットした。
機械の画面に表示される心拍の波形から、全身に血液を送り出す心臓の心室が不規則に細かく震え、
血液を送り出せない「心室細動」の状態と分かった。
佐藤さんは除細動器のボタンを押し、男性の体に電気ショックを与えた。
すると心臓が動き出し、心肺蘇生法を続けた結果、1分後には呼吸も再開した。
男性は病院の救命救急センターに運ばれ、後遺症もなく、職場復帰した。
心室細動は、放っておくと死に至る不整脈。元の正常な心拍に戻す方法は、除細動しかない。
除細動は、日本で救急救命士法が制定された1991年から救命士の業務だが、実施するには、
現場で医師に連絡し、指示を受けなければならなかった。
海外の統計では、心室細動に除細動を行うのが1分遅れるごとに、救命率は7〜10%ずつ下がる。
医師の指示を受けるための1分は、救命にはあまりに長く重い1分だったのだ。このため、国の検討会が協議し、
一昨年4月、医師の指示がなくても除細動ができるようになった。
総務省消防庁が全国の政令市などに行った調査では、除細動を受けた人のうち心拍が再開した割合は、2002年度に27.8%だったが、
医師の指示が不要になった2003年度は33.9%に増加。1か月後の生存率も、12.8%から15.1%に上がった。
ただ、救命率が改善したとはいえ、この数字が示すように、除細動をしても助かるとは限らない。
通報から救急車の現場到着までに平均6分かかり、それまでの間、居合わせた人が心臓マッサージを行うなど市民の協力も重要になる。
ここ数年、活動の幅が広がった救急救命士。その様々な現場を報告する。