アスレティックトレーニング
去る6月15〜19日、第55回全米アスレティックトレ一ナーズ協会(NATA)の
年次総会がメリーランド州ボルティモアにて開催された。
この総会は年に1度、全米各地で行われ、公認アスレティックトレーナー(ATC)などの関係者が集まる一大イベントである。
ATCとは、1990年にアメリカ医学会(AMA)によって認定されたアメリカ国内における準医療従事職であり、
職業理念として、特にスポーツ現場での選手のケアに主眼が置かれている。
この総会では、ATCが資格更新のためのCEUと呼ばれる継続教育単位を獲得したり、
数多くのトピックについて専門家の見解を得ることができる。
また、スポーツ現場に関わる異業種間での最新情報の交換も頻繁に行われ、
それぞれの現場へ迅速にフィードバックできるシステムが確立されている。
総会では、多岐にわたるワークショップやセッションが開かれており、参加して印象に残った内容をいくつか報告する。
まず「心臓震盪」に関するワークショップについて。心臓震盪は「胸部にボールなどの衝撃を受けた際に、
心筋の痙攣が突発的に起こり、心停止の状態に陥ること」と定義されているが、この外傷についての研究は進んでいない。
現状では、症例報告などの詳細なデータが少ないため、実態の把握が困難となっている。しかしその重篤性を考えると、
スポーツ現場に携わる専門家として正しい知識を示し対処法を身につけておくことは必要であり、急務となる。
講演したジェームス・ランディス氏は、心臓震盪について、その発生機序、年齢・スポーツ種目別の発生率や対策などを挙げ、
問題点を指摘した。特に懸念されるのは、2002年の報告データとして引用された、
犠牲者の実に7割以上が16歳以下の若年スポーツ選手であるということだろう。
さらに、外傷発生後の迅速(2分以内)かつAED(体外式除細動器)による適切な救急処置が死亡事故を防ぐ最も有効な手段であることを強調した。
以上のことを考慮すると、子どものスポーツ現場においても救急救命や健康管理に精通した専門家が注意を傾ける必要性があり、
今後、現場の指導者や関係者への一次救命処置(BLS)の普及促進が望まれる。
なお、NATAは昨年からATCの資格取得や更新時に従来から義務付けている心肺蘇生法(OPR)に加え、
AEDによる処置法その他を含めた教育単位の取得も追加した。
スローイングショルダーに関するセッションでは、野球などの競技でみられるオーバーヘッドスローイング時のケガが取り上げられ、
肩関節全体のバイオメカニクス、MRIを用いた外傷・障害の診断法、特定スポーツにおける典型的なケガやその予防法など、
専門家からの最新情報が報告された。スポーツ現場での活動が中心となるATCにとって、
外傷・障害の予防法の確立は最も気を使うテーマであり、
そういった意味でメジャーリーグというトップレベルに携わる専門家のプレゼンテーションは価値が高い。
具体例として、頭部や上背部の前傾がインピンジメントと呼ばれる肩関節の機能異常を引き起こす一要因となることが指摘された。
また、その中で筋緊張が起きている胸部をターゲットにしたストレッチングと弛緩している上背部へのトレーニング方法も紹介された。
さらに、メジャーリーグで活躍しているATCが、常々選手のコンディションの変化に着目することの重要性を示し、
その考え方は日々の実績の積み重ねがあって、初めて成立することを示唆していた。
例えばピッチングフォ一ムの後半に酷使されるインナーマッスル(特に内旋)の機能異常を早期に発見し、
調整・回復へと導く手段として、肩関節の内旋・外旋の可動域や筋力の左右差をシーズン前から定期的に測定しておき、
シーズン中の測定値と比較している事例を報告した。
アメリカにおけるATCと選手との関わりは非常に深いものがあることを、今回の総会に参加して改めて感じた。
日本でもそういった土壌が根付くことを強く願ってやまない。
(報告者:坂本和雄・ATC、スポーツメディカル協会)