スポーツメディカル協会
顧問・医師 太田 眞
ランニングは老いも若きも、誰でも、どこでも、いつでも気軽にできる有酸素運動のひとつで、すべてのスポーツの基本です。厚生労働省は「健康日本21」で1週間に2000Kcal以上の運動により(体を動かすことにより)エネルギーを消費することで総死亡率の低下、心・脳の血管病を予防できることを力説しています。近年の健康ブームをきっかに中高年がジョギングを始めます。低力の低下を自覚し、健康への不安が大きいことがきっかけのようです。さらにはマラソンまでの参加に至るのです。わが国では全国各地で毎日どこかで大会が開催され、5Km以上が年約2000回、フルマラソンでも年約200回と大変な数です。大会参加者総数はのべ9万人にものぼり、そのうち30歳以上が男性で8割、女性では7割を占めます。日本の平均寿命や健康寿命が一昨年でも世界第一位を維持していますが、一方では肥満、喫煙、高脂血症などは低年齢層にまで広まっているのが現状です。先日、東京都のシニアレースのスポーツ医として、駒沢競技場に行ってきました。80歳代の往年の市民ランナー達が見事なフォーム見せてくれました。病気はあるものの、のんびり、毎日、楽しくジョギングしているそうです。介護保険なんて遠い世界の様な話に思えてきました。
このようにランニング持続の効用は高血圧、糖尿病、心臓病などの生活習慣病の予防、治療のみならず大腸癌の予防さらには痴呆の予防にもなることが明らかとなってきました。このような運動を高齢になるまで継続している人は全く活動していない高齢者と比較して健康習慣が良好に保たれており、社会的にも奉仕活動などに積極的に参加している人が多いのです。体調がよく、よく眠れ、カロリーもそれほど気にせず食事がよくとれ、身体的に活発で健康的なライフスタイルを営んでいる結果です。反対に心肺持久力の低いと男女とも死亡率が高いのです。しかし残念なことにマラソン中の突然死が高齢者のみならず、中高年者、若年者においても毎年報告が耐えません(図1)。レースとなると思いもよらないハイペースで心臓の負荷が増大するためなのか?40歳以下ではゴール直後に、高齢者はレース前半に多いと言います。原因として中高年では心臓の血管病である冠動脈疾患、若年では肥大型心筋症、心奇形が多く、いずれにしても心臓、不整脈(心室細動)です。
一昨年、日本陸上連盟はロードレースにおける突然死予防のために、レース当日のセルフチェックの重要性と主催者側への自動体外式除細動器(AED)の設置を呼びかけています。携帯型で非常に便利なもので火事の場合の「消火器」に匹敵するほど重要なものです。今回のシニアロードレースは2.2kmのコース周回でしたがゴール地点とモービル自転車での2台AEDをスタンバイしました。選手が倒れたら3分以内に到着し電気ショックをかけることがコンセプトです。昨年の新聞報道に通勤途中の中年男性が倒れ、心肺停止状態に対し病院までなんと11人の連携プレイにより救命されたとの記事がありました。初期対応の重要性が再認識された事例で、原因は急性心筋梗塞と察します。スポーツ現場の野外のロードランニング中ではこの連携プレイは非常に困難のことが多いのです。このようなことを考えると主催者側の対応にも自づから限界があります。「自らの命は自分で守る」しかありません。昨年の某マラソンで直前のチェックで血圧が高く、指導により思い切って参加を中止した選手もいました。しかしこのような選手は稀で、スタート直前に自分で判断し競技を中止することは極めて勇気がいることです。なぜなら本当に調子が悪いならスタート前に立たないからです。走行距離が長くなればなるほどまた練習時間が多くなればなるほど整形外科的以外にも内科的にも障害の出現頻度が高まります。貧血、心肥大、不整脈、アレルギー、肝障害、血尿など定期的に検査を要するものが多く、中高年層のランナーはいわゆる潜在的にある病気の進行なのか、運動による合併症なのかは経過を見ないと判断に困る場合も多いのです。とくにレース中やゴール直後の外傷事故の場合は実際の事故の程度以上にデータを観ると悪い場合が多く、内臓障害の合併が否定できないので病院では診断に難渋します。以上、日頃の定期検査とレース前、当日の自己チェックは選手における責務と考えられます。
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